2.写 植

 写植を始めたきっかけは、たまたま「アルバイトニュース」で見つけた写植屋の仕事だった。写植がどんなものかも知らずに、長期アルバイトということで神保町の小さな会社で働くことになった。
 仕事は新聞の見出しから目次の原稿を作るというもので、写植をやるというつもりはなかったが、仕事に慣れてくると社長が、その原稿を自分で写植してみないかと言ってきた。せっかくだから覚えておくのも悪くないかと思い、社長に教えてもらいながら少しずつ写植機の使い方を覚えていった。これはタダで仕事を覚えられてラッキーだったと言うべきか、または、そうやってズルズルと写植の道に引き込んでしまおうという社長の罠だったのか、とにかく、その後何年も続けることになった写植の仕事がこうやって始まったのだった。

 写植とは写真植字の略で、機械の下部に光源があり、上部に写真で使うのと同じような印画紙がドラムに取り付けられている。下から出た光が上の印画紙を1文字ずつ感光させて文字の並んだ写真ができるという仕組みで、途中には文字盤とレンズ、シャッターがある。文字盤はいろいろな文字が並んだフィルムをガラス板で挟んだようなもので、これを水平に移動して文字を選び、ガチャンと固定してシャッターを切るという動作を繰り返しながら、印画紙に1文字ずつ印字していく。レンズで大きさを変え、歯車で印画紙の位置を動かしながらレイアウトしていく。
 今なら画面で文字の大きさや形を確認しながらレイアウトすることができるが、当時の写植機には画面というものはなく、シャッターを切った時に文字の中心点を示す点だけが表示されるので、その点の位置だけを頼りに、どんな大きさでどんな形の文字がそこに印字されているのかを想像しながらレイアウトするしかなかった。レンズの大きさをいくつにして、歯車の歯数をいくつ動かして…電卓で計算したりしながら位置を決めていく。まさに職人芸である。
 印画紙を現像してみると、文字が重なってしまったり、違う文字が印字されていたり、レンズを間違えて小さい文字のままずっと印字していたり…とにかく、現像してみて慌てることはしょっちゅうだった。間違えた部分は別の印画紙にバラ打ちして、そこだけ印画紙を剥がして貼り替える。この切り貼りの作業も大変だった。また、時には何時間もかけて印字したものが現像で失敗してダメになることもある。やっと終わったと思ってドラムを暗室に運ぶ途中で転んでしまい、ドラムのフタが開いて印画紙が感光してしまうということもある。こういうことは多くの写植屋が経験していることだった。

 こうして写植された文字は台紙に貼られ版下が作られる。版下は製版にまわされ、写真や網点を組み込んでポジフィルムやネガフィルムに仕上げられる。このフィルムを刷版機にかけてオフセット印刷用の版であるPS版が出来上がるというわけで、この頃の印刷工程はだいたいこんなものだった。



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